前回のレポート 「日向ひまわり独演会」 2009年4月11日(土)横浜にぎわい座のげシャーレ
	  
「日向ひまわり独演会パート2 誰のために咲いたの」は、4月11日満員のお客様をお迎えして、
滞りなく開催することが出来ました。心より御礼申し上げます。
また、次回もよろしくお願い致します。
横浜ひまわりの会


平成21年4月11日の土曜日、横浜は春爛漫の快晴だった。正に絶好の行楽日和で、午後1時開演の独演会は観客動員が
懸念されたが、開演前にはほぼ満員のお客さんで埋め尽くされた。昨年11月に開催された第1回目の独演会より
3割増の動員だという。聴けば、また聴きたくなると言われる「ひまわり講談」の魅力がみなさんに認識される
度合いが高まっているようで嬉しい。
――そう、ひまわりはあとを曳くのです。
客層も老若男女入り混じっていて、ひまわりさんのファン層の厚さがよく分かる。意外と若い男性の姿が少ない
のは何なんだ!(笑)“講釈アイドル”と呼ばれるひまわりさんだが、意外と女性ファンの方が多いみたいだ。
前回はJRの人身事故で開演が遅れたが、今回は定刻通りスタート。主催者挨拶のあと、茶系の縞模様の
着物姿のひまわりさん登場。やや散り始めた桜に因んだマクラから、季節のネタ「秋色桜」に入る。
ひまわりファンにとってこの時期しか聴けない「秋色桜」。これを本寸法で聴けるのは、
さぞや僥倖だったろう。このお秋ちゃんこと、江戸時代を代表する女流俳人・菊后亭秋色の出世話+親孝行話は
実に味わい深い。聴いているうちに観客は、この類稀な才能を持ちながら、謙虚で慎ましやかなお秋ちゃんを
大好きになっていくという仕掛け。そして、そのあと父親に対する親孝行の極みと思えるエピソードが
感動的に語られる。だから、この話は演者がお秋の素直な可愛らしさを、どこまで観客に伝えられるかに成否が
かかるのだが、その緻密な表現において“ひまわり=秋色”は絶品と言える出来栄えである。
他の演者だともう少しゴツイ印象のある秋色だが、ひまわりの手にかかると、女性的魅力が全開となるのだ。
おとっつあんのボケ振りを中心とした、ユーモア感覚も抜群で笑って泣けるエンターティメントの極致をいくように
仕上がりである。この親子愛は現代にも充分通用する……というより、むしろ殺伐な現代だからこそ、
更に貴重な意味合いがあると思うのだ。ともあれ私は、この「秋色桜」を心から愉しみ堪能した。
続いて、ひまわりトークショーが始まった。司会の質問に丁寧に答えていくひまわりさん。
今聴いたばかりの「秋色桜」のエピソードの数々から始まり、今に残る関連史跡や秋色の子孫がやっている
銘菓店の話は印象深く、作品世界の理解を深めるのに貴重なものばかり。続いての話題は、ひとつの話が
ひまわり講談として完成し世に出るまでの流れで、その詳細が微に入り細に入り語られたので、
講談ファンには垂涎の貴重なものとなった。

ここで、中入り休憩。

後半は、「木村長門守重成 堪忍袋」の一席。マクラで、若い女性の間で戦国武将がブーム
(ベストワン人気は真田幸村だと聞いたことがある)になっておりひまわり自身は木村長門守が好きと言い、
兜にお香を焚いて戦場へ赴いたエピソードを紹介し、
「堪忍袋」へ。
私は初めて聴く話だったが、これは長門守の高潔な人柄と相俟って、実に爽快な噺となっていた。
陰湿なイジメに無抵抗で抵抗した噺だが、イジメが日常的に横行する現代に充分通用する今こそ聴く
価値のあるものだろう。「秋色桜」のお秋といい、「堪忍袋」の木村長門守といい、その高潔な美しさが
人の胸を打つ。ささやかでもよい、ちっぽけでもいい、人が人を思いやることからすべては始まるのだ。
殺伐で陰惨な事件ばかり聞かされる今日この頃、人間なんて本来醜悪なもので、われわれの人生に救いはないように
感じてしまうこともある。しかし、他人を思いやる気持ちを持ち、愛する人を自然に愛したら、きっと人間の
社会は素敵なものになれるという切ない希望が地熱のように湧き上がってくる――そんな見果てぬ夢への願望が、
ひまわり講談の底流には流れている。こんなことを思わせる乾坤一擲、魂の高座をひまわりは見せてくれた。
もちろん、まだまだ勉強し上達の余地はあるのだろう。小さな瑕疵を言い出したキリがないのかも知れない。
まだ熟達の年齢には達してはいないのだろう。だが、ひまわりの講談には思いがある。心がある。
切ない希望がこめられている。それをおもしろおかしく、誰にでも分かるように伝えたいという強烈な意思がある。
そうした思いの強さが、確かな技術に裏打ちされて、正に何かが取り憑いたような高座だったと思う。
ひまわりの尊敬する先輩・三遊亭遊雀師匠の「ひまわりさんは真打になったからには、独演会をどんどんやることが大切」
という言葉から、この会が始まったと聞く。今回の独演会を見ていると、その意味が私のような素人にも
良く分かる気がする。
ああ、こんなことを書いていると、またひまわりが聴きたくなってきた。困ったものだ。
                                   (H・H)





 

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